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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)1389号 判決

原告

奥学

被告

明石亘

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告に対し、一〇六万六五〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、各自、原告に対し、三二九万四七二五円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言の申立て

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、川崎市幸区小向三の二に於て自動車板金塗装業を、同区南幸町三の二に於てサーフシヨツプを営業している者である。

2  被告明石亘(以下「被告亘」という。)は、昭和五九年一二月二七日午前三時三〇分頃、普通乗用自動車(横浜五二は四〇一五号)を運転し、川崎市幸区小向三の三先国道一号線を東京方面から横浜方面に向けて走行中、居眠りをして車を暴走させ、原告の前記自動車塗装工場の閉鎖中のシヤツターに激突し、シヤツターを突き破り工場内部に突入して停止した。

3  本件事故により、原告は次のとおりの損害を受けた。

(一) 工場機械設備

本件事故により工場前部シヤツター並びに工場設備機械類が破壊され、原告は、その修理費等として次のとおりの損害を受けた。

(1) コンプレツサー 一個 修理費三八万円

(2) ヒーター 一組 修理費一四万二〇〇〇円

(3) オートスポツター 一個 修理費一七万九〇〇〇円

(4) シヤツター看板 一式 四八万円

(破損されたシヤツター上に昭和五八年二月、ハクリ剤、サフエーサー、硬化剤、アスキングテープ、型紙、塗料、シンナー、クリヤ、シリコンオフ等材料費六万円、手間賃二人分三三万四五〇〇円を要して描かれたもの。)

(5) ロツカー 二個

塗料

シンナー 以上合計一〇万円

(6) リヤバンバー部分 六万円

(二) 保管中のサーフボード、フアンボード

原告は、原告所有のサーフボード、フアンボード、サーフシヨツプの客から預かつたサーフボード、フアンボードを工場内に保管していたが、本件事故により右サーフボード等が損傷を受け、客から預かつていた分については客に現金で補償した。

(1) マークリチヤードサーフボード 一個 一五万八〇〇〇円

(2) パワーズサーフボード 一個 一二万八〇〇〇円

(3) パワーズフアンボード 一個 二三万五〇〇〇円

(4) ビクトリーレーシングモデルMK―Ⅲ 二個 四七万円

(5) パワーズサーフボード 一個(中古)五万八〇〇〇円

(6) パワーズサーフボード 一個(中古)六万八〇〇〇円

(三) 休業損害

原告は、本件事故のためシヤツターが破損されて開かなくなり、昭和五九年一二月二七日から昭和六〇年一月二五日まで板金塗装工場を休業した。

右工場の本件事故前三ケ月間(月平均二五日就業)の平均月収は八三万六七二〇円であつたから、原告は、右同額の損害を受けた。

4  被告明石英鷹は、昭和五九年一二月三〇日、原告に対し、本件事故により原告が受けた損害のうち自動車対物賠償責任保険で填補されない損害を賠償することを約した。

5  よつて、原告は、被告らに対し、各自三二九万四七二五円及びこれに対する本件事故発生後の昭和六〇年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実は知らない。

2  2項の事実は認める。

3  3項(一)、(二)の事実のうち、本件事故でロツカーに凹損を与えたことは認めるが、その損害額は争う。その余の事実は知らない。

4  同項(三)の事実のうち、原告の平均収入額は知らない。その余の事実は否認する。

5  4項の事実は認める

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告が、川崎市幸区小向三の二に於て自動車板金塗装業を、同区南幸町三の二に於てサーフシヨツプを営業していることが認められる。

二  被告亘が、昭和五九年一二月二七日午前三時三〇分頃、普通乗用自動車(横浜五二は四〇一五号)を運転し、川崎市幸区小向三の三先国道一号線を東京方面から横浜方面に向けて走行中、居眠りをして車を暴走させ、原告の前記自動車塗装工場の閉鎖中のシヤツターに激突し、シヤツターを突き破り工場内部に突入して停止したことは当事者間に争いがなく、右事実によると、被告亘は、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべきである。

三  そこで、本件事故により原告に生じた損害につき検討する。

1  工場機械設備

原告は、本件事故により工場設備機械類であるコンプレツサー、ヒーター、オートスポツターが破壊され、原告は、その修理費等としてコンプレツサーにつき三八万円、ヒーターにつき一四万二〇〇〇円、オートスポツターにつき一七万九〇〇〇円の修理費を支出した旨主張する。

原告本人尋問の結果(第一回)により本件事故当時工場内にあつたコンプレツサーの写真、同カタログと認める甲第三一号証の一ないし三、オートスポツターの写真、同カタログと認める甲第三三号証の一、二、ヒーターの写真、同カタログと認める甲第三二号証の一ないし三、証人枡谷秀樹の証言によると、本件事故当時、工場内にコンプレツサー、ヒーター、オートスポツターが有り、それぞれ外部に小さな傷がついていたことが認められる。

しかるところ、右傷が本件事故により発生したか否かの判断はさて置き、前記原告本人尋問の結果中には、原告は、右機械類の修理を訴外中川機工に代金五五万八〇〇〇円で依頼し、修理代金を支払中である旨の部分があり、原告は、甲第一七号証の一として、コンプレツサーの修理内容をシリンダー、マグネツトの交換、代金を部品、取付け工賃とも二五万四〇〇〇円、ヒーターの修理内容をボイラーカバー、燃焼灯、フアン、代金を工賃とも一二万五〇〇〇円、オートスポツターの修理内容を取つ手、カバー、スイツチ、タイマー、ICダイオード、代金を工賃とも一七万九〇〇〇円とする訴外中川機工の見積書、甲第二三号証の二ないし九、第三九号証の一ないし一六として訴外中川機工が原告宛に発行した右修理費の領収書を提出する。

しかし、前記コンプレツサー、ヒーター、オートスポツターの写真から窺える右機械類の損傷程度と見積書の修理内容は大きな隔たりがあり、且つ、前掲の各証拠、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第一三号証の二、第一五号証によると、コンプレツサーは、イワタコンプレツサーSP―二二PRで小売り価格が二五万四〇〇〇円の品、ヒーターは、長府SBヒーターSBH三五ないし八〇で小売り価格が一二万五〇〇〇円ないし一四万二〇〇〇円の品(訴外中川機工は、SBH三五として見積)、オートスポツターは、平根電測工業のPT八Dオートストツパーで小売り価格が一五万円の品で、いずれも修理代金が小売り価格と同額ないしこれを上回ることが認められ、右事実によると、原告の前記尋問結果、甲号各証には作為が窺われ、にわかに措信することができない。

そして、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠はないので、原告のこの点の損害の主張は認めることができない。

2  看板

原告は、本件事故により工場前部シヤツターが破壊され、シヤツター上に描かれた看板が無価値になつたが、右看板は、昭和五八年二月、ハクリ剤、サフエーサー、硬化剤、アスキングテープ、型紙、塗料、シンナー、クリヤ、シリコンオフ等材料費六万円、手間賃二人分三三万四五〇〇円を要して描かれたもので、原告は、四八万円の損害を受けた旨主張する。

成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、証人枡谷秀樹の証言によると、本件事故により工場前部のシヤツターが破損し、被告亘が右シヤツターを新品と取り替えたこと、破損したシヤツターには、一面に椰の木とサーフアーのプリミテイブな絵が描かれていたことが認められる。

しかし、原告の右主張を直接立証する証拠はなく、原告本人尋問の結果(第二回)中には、シヤツターに絵を描くのは大型車のオールペイント二台分に相当し、ペイント料金は、ツートンカラーで材料費二〇パーセント、技術料二〇パーセント加算になるところ、シヤツターは七色か八色使用し、アクリルウレタン塗料を使用するので五〇万円を越える金額になる旨の部分があり、同尋問結果により真正に成立したものと認める甲第四七号証によると、大型車のオールペイントの料金は材料費が三万八〇〇〇円、技術料が一四万五〇〇〇円で、ツートンカラーの場合は、材料費二〇パーセント、技術料二〇パーセント加算されることが認められる。

しかし、弁論の全趣旨によると、右シヤツターに描かれた絵と自動車の塗料は基本的に異なるから、右シヤツターに描かれた絵の価格は、自動車の塗装代を参考として評価すべきではなく、看板屋に発注した場合の価格を参考にして評価をした上、使用期間による減価償却をした後の残存価格によるべきものと判断されるところ、一件記録によるも、右認定の資料とすべき証拠はないから、原告のこの点の損害の主張は認めることができない。

3  ロツカー、塗料

原告は、本件事故により、工場内にあつたロツカー二個が破壊され、内部に保管されていた塗料、シンナーが使えなくなり、ロツカーとも合計一〇万円の損害を受けた旨主張する。

成立に争いのない乙第一号証、原告本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認める甲第四六号証の一、二、同尋問結果によると、本件事故の際、加害車両が工場内に進入し、ロツカーに衝突し二段重ねのロツカーの下段の角を凹損させたこと、ロツカー内に自動車の塗装に使用するシンナー、ペイント類が収められていたこと、右ペイント類は封を取つた上で、給入用の金具を付けた状態にしておいたところ、本件事故により内部にごみが入り、使用できなくなつたこと、右シンナー、ペイント類の価格は一〇万二五五〇円であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

しかるところ、右破損したロツカーの価格を認める証拠はないが、右認定事実によると、原告は、本件事故によりロツカー、塗料を破損され、少なくとも一〇万円の損害を受けたものと認められる。

4  リヤバンバー

原告は、本件事故により、工場内にあつたリヤバンバーに傷がつき六万円の損害を受けた旨主張する。

原告本人尋問の結果(第一回)中には、本件事故によりリヤバンバーが使用できない程度に傷がついた旨の部分があり、証人枡谷秀樹の証言によると、保険会社のアジヤスターの同人が工場に行つたとき、工場内に傷のついた外車のリヤバンバーがあつたことが認められる。

しかし、右リヤバンバーが本件事故により破損したことの確証はなく、原告のこの点の損害の主張は認めることができない。

5  保管中のサーフボード、フアンボード

原告は、原告所有のサーフボード、フアンボード、サーフシヨツプの客から預かつたサーフボード、フアンボードを工場内に保管していたが、本件事故によりサーフボード等が損傷を受け、客から預かつていた分については客に現金で補償した旨主張する。

原告代表者本人尋問の結果(第一回)により本件事故により被害を受けたサーフボードないしフアンボードの写真と認める甲第二号証の一、二、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、同尋問結果により真正に成立したものと認める甲第四号証の三、第五号証の四、第二〇号証ないし第二二号証、第三五号証の一ないし四、成立に争いのない乙第四号証、証人枡谷秀樹の証言、前記原告本人尋問の結果によると、本件事故により、当時工場内にあつたマークリチヤードサーフボード一個、パワーズサーフボード一個、パワーズフアンボード一個、ビクトリーレーシングモデルMK―Ⅲ二個、パワーズサーフボード一個(中古)、パワーズサーフボード一個(中古)に傷がついたこと、右サーフボード、フアンボードの小売価格は、マークリチヤードサーフボードが一五万八〇〇〇円、パワーズサーフボードが一二万八〇〇〇円、パワーズフアンボードが二三万五〇〇〇円、ビクトリーレーシングモデルMK―Ⅲが二三万五〇〇〇円、パワーズサーフボード(中古)の一点が五万八〇〇〇円、他の一点が六万八〇〇〇円であること、卸売価格は、マークリチヤーサーフボードが一四万二二〇〇円、パワーズサーフボードが一一万五二〇〇円、パワーズフアンボードが一九万九七五〇円、ビクトリーレーシングモデルMK―Ⅲが一九万九七五〇円、パワーズサーフボード(中古)の一点が五万円、他の一点が六万円であること、事故後の査定価格はマークリチヤードサーフボード、パワーズサーフボードが各九〇〇〇円、パワーズフアンボード、ビクトリーレーシングモデルMK―Ⅲが各一万円、中古パワーズサーフボードが各八〇〇〇円であること、マークリチヤードサーフボード、パワーズサーフボード、パワーズフアンボードは、客の預かり品で、原告において損害の補償をすべき品であつたことがそれぞれ認められる。被告明石亘本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに措信しがたい。

右事実及び前示のとおり原告がサーフシヨツプも経営し、客からの預かり品以外は原告の商品であり、右商品については損害の算定は卸価格によるのが相当であるから、被害を受けたサーフボード、フアンボードの価格から事故後の査定価格を控除すると、原告は、合計九六万六五〇〇円の損害を受けたものと認められる。

6  休業損害

原告は、本件事故のためシヤツターが破損されて開かなくなり、昭和五九年一二月二七日から昭和六〇年一月二五日まで板金塗装工場を休業したが、右工場の本件事故前三ケ月間(月平均二五日就業)の平均月収は八三万六七二〇円であつたから、原告は、右同額の損害を受けた旨主張する。

そして、原告本人尋問の結果(第一回)中には、右主張に沿う部分があり、原告は、その証拠として甲第六号証ないし第一二号証を提出し、甲第六号証には、昭和五九年一〇月六日に訴外新海典彦のシグマバン品川四六そ三〇八〇号を二三万八〇〇〇円で修理し、同人は代金を当日支払つた旨の記載が、甲第七号証には、同年一〇月一六日に訴外奥勇治のスバルバン横浜四五と六六三一号を二五万円で修理、オールペイントし、同人は代金を当日支払つた旨の記載が、甲第八号証には、同年一〇月三〇日に訴外荒井美樹夫のいすずトラツク足立四四ひ六六八九号を一八万円で修理、オールペイントし、同人は代金を当日支払つた旨の記載が、甲第九号証には、同年一〇月二六日に訴外川合和雄のマークⅡバン品川四六そ四一三九号を二〇万円でオールペイントし、同人は代金を当日支払つた旨の記載が、甲第一〇号証には、同年一一月一四日に訴外浅利政幸のスカイライン品川五五み二一一六号を三六万円で修理し、同人は代金を現金で支払つた旨の記載が、甲第一一号証には、同年一一月二〇日に訴外仁藤克徳のフエアレデイ川崎五五の六二八〇号を八六万八三七〇円で修理、オールペイントし、同人は代金を支払つた旨の記載がそれぞれあり、証人新海典彦の証言中には甲第六号証は同人の作成によるものであり、同人は同書証に記載のとおりの修理をした旨証言している。

しかし、原告本人尋問の結果(第一回)によつても、板金塗装工場のシヤツターが破損されたことにより、工場を休業せざるを得なかつた理由が明らかでなく、また、シヤツターは原告の主張によつても昭和六〇年一月二五日迄に修理され、営業が可能になつたにもかかわらず、前記の甲第二三号証によると、訴外中川機工から機械の見積が出たのが昭和六〇年四月九日で、その頃まで営業をしていなかつたことが推認されること、原本の存在、成立に争いのない乙第六号証、証人枡谷秀樹の証言によると、訴外新海典彦が修理したとする車両の当時の時価は三〇万円ぐらいであり、昭和六〇年七月一日に車検切れになる車両であつたことが認められ、右書証の記載並びに証人新海典彦の証言はにわかに措信できないこと、甲第七号証ないし第一一号証が真正に成立したことを認めるに足りる証拠はないのみならず、成立に争いのない乙第七号証ないし第九号証、原本の存在、成立に争いのない乙第一〇、第一一号証、証人枡谷秀樹の証言によると、訴外奥勇治が修理、オールペイントしたとする車両は初年度登録昭和五二年七月の車両で、当時の時価一三万ないし一四万円の車両であつたこと、訴外荒井美樹夫がオールペイントしたとする車両は初年度登録昭和四七年一二月の車両で当時の時価が四万円くらいの車両であつたこと、訴外川合和雄がオールペイントしたとする車両は初年度登録昭和五四年八月の車両で、昭和五九年一二月一三日に車検切れになり、昭和六〇年二月一四日に廃車になつていること、訴外浅利政幸、同仁藤克徳が修理した車両については、原告は甲第二八号証の一、第二九号証の一の各見積書を提出するが、右見積書は内容に部品との整合性を欠いたり、重複記載がある等し、右甲号各証の内容には疑問視されるところも多いこと等によると、原告主張のとおり原告が本件事故発生前に一ケ月平均八三万六七二〇円もの収入を得ていたことはもとより、いかなる金額の収入を得ていたか明らかでない。

従つて、原告の休業損害についてはこれを認めることができない。

四  結論

しかるところ、請求原因第4項の事実(被告明石英麿の責任)は当事者間に争いがなく、以上によると、原告の本訴請求は、被告らに対し、一〇六万六五〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六〇年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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